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青森地方裁判所 昭和30年(行)21号 判決

原告 平山ヒサ

被告 青森県知事

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告所有の別紙目録記載の土地に対し昭和二十四年九月十九日付を以てなした換地予定地指定処分の無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

被告は特別都市計画法に基き青森市の土地区画整理事業を施行するものであり、原告は右地区内に別紙目録記載の土地(以下本件土地という。)を所有しているものであるが、被告は右事業の施行者として本件土地に対し昭和二十四年九月十九日付を以て別紙図面(朱書範囲)のとおり換地予定地指定処分をなした。然しながら、右指定処分は次のような重大な瑕疵があるので当然無効のものである。

一、特別都市計画法第十条によると、換地に関する事項を定めるには施行者たる行政庁は土地区劃整理委員会の意見をきくことが要求せられているが、本件換地予定地の指定処分には何等そのような手続を履践した事実がなく、且つ被告の裁決もなされていない。

二、又本件換地予定地指定処分について、特別都市計画法第十三条第二項に基く、所有者たる原告に対する通知がなされていない。

よつて茲に被告に対し本件換地予定地指定処分の無効確認を求めるため本訴請求に及んだ。と述べ、被告の答弁に対し、被告は本件換地予定地の指定処分は関係土地所有者等の協議に基いてなされたと称するが、右はそれ自体前同法所定の適法な手続と言えぬばかりでなく、抑々原告はそのような協議をなした事実がない。又右協議の結果につき前記委員会に対する報告もなされていない。又被告は右指定処分は昭和二十二年六月二十三日本件土地に対してなした第一回の換地予定地の指定処分を変更したものの如く主張するが、右第一回当時は未だ区画整理委員会の構成すら行われておらず、従つてその意見を聞くに由なき筋合であるから、右前の指定も無効のものであると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中本件土地が原告の所有であること、該地に対し、被告が特別都市計画法に基く土地区画整理事業の施行者として、昭和二十四年九月十九日付を以て別紙図面(朱書範囲)のとおりの換地予定地の指定処分をなした事実は認めるが、その余の事実は否認する。

換地予定地の指定処分に関する特別都市計画法第十条及び第十三条には、(一)土地区劃整理委員会の意見をきくこと、(二)換地予定地の所有者その他関係者に通知することが規定せられているのみでその余は事業者に一任されているのである。而して本件土地に対する第一回の換地予定地指定処分は昭和二十二年六月二十三日、原告に通知してなされたが、その後換地地積と現地に喰違いがあることを発見したので関係人全員が協議の上右指定処分を変更することとし、昭和二十四年九月十九日付を以て本件換地予定地の指定処分をなしこれを原告に通知した。尤も原告は該通知書を一旦受領しながら右処分を不満とし即日これを返還したが、一旦通知がなされた以上右処分は有効に成立したものというべきである。現に原告は右処分の対象地の範囲につき係員が現地において抗打ちした際、現場に立会つていたし、又昭和二十七年春頃本件換地予定地指定処分を前提として該換地予定地に建在していた原告所有の建物を二階建に増築している事実もあり、本件処分の内容を了知していることが明かであるから原告の本訴請求は失当である。と述べた。(立証省略)

理由

一、本件土地が何れも原告の所有であること、被告が特別都市計画法に基き土地区画整理のため昭和二十四年九月十九日付を以て別紙図面(朱書範囲)のとおりの換地予定地の指定をなしたこと、以上の事実は当事者間に争がない。

二、原告は、先ず、右指定処分が土地区劃整理委員会の意見をきくことなく行われたから無効である旨主張するが、特別都市計画法に基く土地区劃整理委員会は所謂諮問機関としての機能を営むに止まるものであるから、同委員会に対し意見を聞くことなく換地に関する処分がなされたとしても、該処分が当然無効となるということはできない。(最高裁判所民事判例集第十巻十一号一四六八頁以下参照)のみならず、本件についてみるに、成立に争のない乙第三号証の一乃至三、及び証人中村浩、同望月信治の各証言を綜合すると、本件土地に関する第一回換地予定地指定処分は昭和二十二年六月二十三日原告に通知してなされたが、その後右処分内容に測量上の誤謬に基く原地とのくいちがいを発見したため、原告(代理人をして出席せしむ)及び関係土地所有者等の利害関係人を集めて協議したところ、右第一回の処分を変更する旨の合意が成立したので、その結果を土地区劃整理委員会に報告し、その了承を得た上本件指定(変更)処分(原告に対しては更に八坪余を増歩して)がなされた事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。しかしてこのように関係土地所有者等の合意を基礎とし、これに基いてさきの換地予定地の指定を変更する場合には、必ずしも特別都市計画法第十三条所定の手続を履践する要がないものと解するのを相当とすべく、従つて原告の右主張はいずれの点からするもその理由がない。

三、次に、原告は本件換地予定地の指定処分の通知がなされていない旨主張するのでこの点につき按ずるに、証人中村浩、同望月信治の各証言によると、訴外中村浩が本件指定処分の通知書を原告の住居へ持参したが、原告は不在であつたので、そこにいた原告の家族の一人と思われ且つ前述の関係人等の協議の際、及び本件処分の対象地を現地で抗打ちして指示した際、並びに本件指定処分に関する県との交渉において、ともに原告の代理人として関与し、本件処分の内容を熟知している某男に右通知書を手交せんとして提示したが、同人からその受領を拒絶せられたものであることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。以上の事実に徴すれば、原告は、反証なき限り、右中村浩からの某男に対する通知書の提示があつたときにおいて本件指定処分の通知を受けたものと解するのが相当であつて、原告のこの点の主張も又採用の限りでない。

そうだとすると、原告の本訴請求は理由がないから棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木次雄 宮本聖司 右川亮平)

(別紙目録省略)

(別紙図面)〈省略〉

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